わたしと明日のおしゃれなカンケイ

スタイリスト&エッセイストの中村のんの日々、印象に残った出来事。

ケイタ マルヤマの夢世界

お洋服には「実用」と「夢を与える」二つの役割があると思います。動きやすさや機能性を重要視するだけでなく、トレンドをできるだけ安く買って、飽きたら捨てて次のトレンドを安く買う。たとえそのお洋服にフリルやビーズが施されていたとしても、このやり方も「実用」なのだと思います。時代の流れの中で、致し方ないと思いながらも、「着ること」からどんどん「夢」の部分が失われてゆきつつある今を、淋しく感じることが多々あります。

そんな私の「KEITA MARUYAMA Spring&Summer COLLECTION 2013」の報告です。

開催された場所は、麻布迎賓館。ピンクの封筒に入った扇の招待状を持って、洋風のお屋敷のパーティに招かれたような気持ちで門をくぐりました。
お庭の一角に作られた、なんとも私好みの、なまめかしいコーナーで、うふ!記念写真。

ショーのタイトルは「RAFFLES HOTEL」。映画化もされた村上龍の小説のタイトルにもなった、シンガポールにある美しいホテルの名前。そそられまくり。

小劇場仕立ての幕が開くと、そこはラッフルズホテルのラウンジ。ピアノの生演奏のエリック・サティの曲をバックに、ミステリアスな美女達が次々に現れ、まどろむような表情をしながらソファに身を委ねたり、退廃的なムードを漂わせながら立ち去ってゆく演出。

これまでのショーで見てきたランウェイを闊歩する美女たちとはまったく違うオーラの女性達は、モデルというより、女優のようであり、また、過去から現れた人たちのようにも思えてきました。

糸の色を、レースのディテールを、生地の感触を、刺繍の花を愛でながら、デザイナーが作った服。それを纏って「今」という時間空間に、ゆったりと身を漂わせる女性達が醸し出す夢の世界。
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花様年華」[ラスト、コーション」といった映画にみる「美」のセンスが、超ツボな私はうっとりすると同時に、テンション上がりっぱなし。

幕が降り、フロアにでてきたケイタさんに、思わず「もうもう、だーい好きな世界!」と言いながら、駆け寄ってしまいました。でもって、「ケイタさんの写真、取りたい!」と言ったら、こんな風にポーズしてくれたケイタさん。お茶目!

庭に出たら、次の回に来られた宇野亜喜良さんがいらしたので記念写真を撮らせていただきました。

十代の頃から大ファンだった、宇野さんのイラストがテキスタイルに使われたケイタ マルヤマのストールは、私の一生の宝物なので、ケイタさんのショーの場で、宇野さんとお会いでき、ツーショットを撮っていただけたことにも感動ひとしおでした。(これが春に買ったそのストール↓)

「早い・安い・まあまあ」が幅を利かせている「今」という時代の中で、ファッションをこよなく愛するデザイナーが、「夢」を込めて繊細にお洋服を作り、その「夢」を買ってもらうことがどんなに困難なことであるか。そのシビアな現実を知っているからこそ、ケイタさんの今回のショーは単なる「演出」なのではなく、ファッションを取り巻く世界に対する思いのこもったメッセージなのだと、そんな風にも思えた私でした。
ケイタさん、時代の風に負けないで、これからもどうか、美しい物を作り続けて、キラキラした夢を、花吹雪のように、撒き散らしてくださいね!