わたしと明日のおしゃれなカンケイ

スタイリスト&エッセイストの中村のんの日々、印象に残った出来事。

人生のリスタートについて考えた日

11月12日、この夏、横浜にお引っ越しされた平野久美子さんの新居に遊びに行きました。
そういえば、前々から気になってたお店「sumica栖」は、平野さんのお家の近くだったはず、と気づいて、平野さんちに行く前に、朝イチで寄ることにしました。
夏にオープンしたばかりの「sumica栖」のオーナーの栗栖久さんは、元々はCMディレクターとスタイリストの立場で知り合った仲です。
うつわやさんへの転身は、はじめに人から聞いたとき、意外でしたが、繁華街から離れた静かな地域にあるお店に入った途端、栗栖さんらしいセンスが一瞬にして伝わってきて、実際を見てみて超納得。http://www.utsuwa-sumica.com/

いろんな好みやタイプのお客さんをターゲットにするのではなく、「栗栖セレクト」を大事にしているコンセプトがダイレクトに伝わってくるうつわたち。

一番最初に目に止まり、あらゆるうつわに目移りしながらも、最後の最後にまた手に取ってしまったのが、このうつわでした。懐具合が不安になりながらも、それでもどうしても欲しくなってしまったうつわ。思い切ってゲットしました!


「素敵なお店だったねー」と言い合いながら、平野さんちに移動。
長年住んでいた都内の家を処分して、横浜のマンションにお引っ越しするに当たって、荷物を四分の一に減らしたこと、その作業がどんなに大変だったかを、平野さんからお聞きしていました。
その甲斐あっての、新居のすっきりさ。ほとんど物がないながらも、平野さんのセンスが感じられるインテリアと、平野さんらしいアジアンテイストのランチにうっとり。

ベトナム風のオムレツと、味噌漬けしたチキンを青梗菜と炒めて甜麺醤で味付けした物、シンプルながらも美味しいの何のって。

九谷焼のうつわをフォーに使うところも平野さんらしい。(写真がボケボケで残念(>_<))

大方の食器を処分して、残した食器は「本当のお気に入り」だけにしたそうです。
「そのひとつがこれ。きっとのんちゃん、好きだと思うわよ」と見せられたうつわ。よくわかってらっしゃる!「わー、美しい!」と大興奮。
ベトナムの元の時代の物をリプロダクトしたものだそうです。
フォルムといい色といい柄といい、カンペキ好み!

ランチをいただきながら「食」についての会話をしてたら、平野さんが「そうそう、このお米が美味しいのよ」と、可愛いパッケージの有機米を出してきました。

パンフを見て、ビックリ!な、な、なんと、グラフィックデザイナーとして知り合いだったOさんが写ってるではありませんか!
Oさんといえば、ワイルドなソバージュの髪と、ピタピタの黒の服と、アグレッシブな雰囲気が頭に浮かぶのだけれど、ここに写ってるOさんは、まさしく明るく健康的な農家のおばちゃん。
数年前、長野に移住してお百姓さんになったのだそう。同い年の業界友達の転身に驚くやら、感動するやら。。。。お米、取り寄せてみよっと。



うちに帰って、PCを開いたら、栗栖さんからのメッセージが届いていました。

「あのうつわの作家は、福島県いわき市で作陶する山野邊孝さんという方です。震災前の彼は、白からベージュの静かな佇まいのものだけを作る作家でした」
という書き出しのあとに、
震災によるダメージを受けた山野邊さんが、その後、灰釉の淡い窯変を追求し始めたところから、自然と作風が変わり、以前より力強い作品を作るようになったこと、そして
「あの鉢は、彼が震災を経験したあと、はじめて作り出したものです。
それをのんさんが選んだことがとても感慨深かったです。
うつわとの出会いは、背景に、そんなSTORYがあったりします。」
と書かれていて、じーんとしました。
そんな経緯は知らなかったけれど、どうしてもあの器が欲しくなった(言葉で表現できることではない)理由がわかったような気がしてきました。
そしてまた、栗栖さんが、こだわりをもってひとつひとつのうつわを選び、愛をこめてお店に並べている様子に、心があたたかくなりました。



CMディレクターから、うつわやさんになった栗栖さん。
抱えてた荷物を思い切って四分の一に減らして、生まれ育った街を離れた平野さん。
デザイナーからお百姓さんに転身したOさん。
震災のダメージを受けたことによって、作風に力強さが加わった山野邊さん。
人生の形を変えること、やりたいことをちゃんとやること、心の声に従うこと、自分の役割はどう変えたっていいんだ、もちろんそこに行き着くまでには、努力することが大事だけど。そう、すべては自分次第。
なんてことについて、思いがけず、いろいろ考えたり、勇気をもらえた一日でした。そして、いくつになっても、人生、バンザイ!なんだか、そんな気持ちにもなれた幸せな日でした。