わたしと明日のおしゃれなカンケイ

スタイリスト&エッセイストの中村のんの日々、印象に残った出来事。

話題の問題作『エスケイプ・フロム・トゥモロー』試写観ました!

2013年1月サンダンス映画祭でプレミアされるやいなや、「最大の問題作」と世界中で話題になるも、
ディスニー王国の日本では絶対に公開不可能と噂された映画『エスケイプ・フロム・トゥモロー』、
「厳選された方のみの特別招待」という招待状をいただき、日本版字幕版の完成披露試写会に行ってきました。

送られてきた招待状を見た瞬間、ロゴの雰囲気などから咄嗟に「あ、ディズニー映画なのね!」と思ってしまいましたが、これがとんでもない!

本作が監督デビュー作となるランディ・ムーアが、無許可でディズニーランドに、キャノンのデジタル一眼レフカメラ、5DMarkⅡをを持ち込んで、ゲリラ的に撮影した映画。
ひと言でいえば、完璧にノックアウトされました!

妻と、おとぎの国の子どもたちのように美しい男の子と女の子をもつジムが、ディズニーランドで過ごす休暇の最後の日の朝、「明日からクビ」と、会社から電話で連絡を受けるところから始まる映画ですが、ストーリーに関しては、これ以上は差し控え、思いつくままに感じたことを書きます。

震災以降、世の中が加速してパラレル化してきているように思えている私なのですが、その感覚に直球を投げられたような感覚に陥りました。

たとえば、東京がオリンピックの開催地に決定したとき、一定数の人たちにとってそのことはバンザイ!するべき出来事で、でも、ある一定数の人たちにとっては、まさかの悪夢のように思えることでした。
1963年の東京五輪で、日本中の人々が鼓舞したの時とはまったく違う世界が繰り広げられている今という時代なのです。


以下は、本日渡されたプレスリリースにメディア研究家、新井克弥さんが寄稿された文章からの抜粋です。

「想像(イマジネーション)ほどパワフルなものはない」
そう言ってウォルトは厳格なカトリック的宗教観に基づきながらイマジネーションのなすがままにディズニー世界を押し広げた。それがディスニフィケーションに基づく相互矛盾のない世界観の創造だった。(略)
ところが、ウォルトの「創造」も、ジムの「妄想」も、ともに「想像」が生み出したもの。表面的には前者は白い想像、後者は黒い想像。だが、この二つは結局のところ同じものの二面性。(略)
ムーアは本作の中でディズニーランドという創造とジムの妄想を対立されることで、結果として、ウォルトのイマジネーションの本質を浮き彫りにする。



「現実はすべて人の想念が作り出しているもの」、日頃から「この世の現実」をこのように捉えている私にとって、「よくぞ描いてくれた!」とも思える世界。
また、ストーリーを追っていると、どこまでが現実で、どこからがジムの妄想なのか判別のつかない感じでもあり、そこに関しては、私の好きなデビッド・リンチにも相通ずる世界観。


そして以下にランディ・ムーア監督の言葉を引用します。

この映画の真のテーマはつまるところ、「現実逃避」という意味を明かにするところにあると言えます。そうした「逃避」を求めているアメリカの家庭はあまりにも多く、彼らは極上の気晴らしや完璧な娯楽を手にしようと、年に一度、物欲の聖地への巡礼におもむきます。
私が思うにこうしたことは、我々が幼少の頃より引き継いできた、人工的なファンタジーそのもの。今の子供達は、あたかも誰もが王子や王女になって、自分達の王国を一生幸せに統治していけるような神話の中で育てられますが、こうした王国は実際には、ほとんど表に出てこない企業家たちの手によってのみ存在しているのであり、彼らは想像もつかないようなやり方で利益をあげ、普遍的な観念を意識下に擦り込んでいきます。



この文章を読まないまでも、映画を観ながら私の頭の中には「原発神話」が浮かんできました。と同時に「プロパガンダ」についても思いがいきました。
まさしく、震災以降、今の世の中に対して考え、思いを巡らせていたテーマが詰め込まれた作品に出会えた感じでした。

単純な感想としては、よくぞこの映画が、ディズニーに訴えられることなく、公開に漕ぎ着けた、という感じですが、先に書いた新井克弥氏の文章を引用すれば

「きわめてまっとうで生真面目な、そしてディズニー世界、ウォルトへのリスペクト溢れる作品に昇華させることに成功している。批判しようにも、ここまでディズニー世界を知り尽くしていると、もはや反論できない。
それほどまでに本作はディズニー、そしてウォルトへの愛が込められているのだ。」

ここで拍手、ここでお涙、ここで笑い、ここでしみじみ、という作りではないだけに、どこがツボに刺さるかは、10人いたら10人が違う部分だろうと思える作品であり、「感動した」という言葉も当てはまらない内容だけど、私個人の感想でいえば、とにかく、五感を超えた深い部分にズドンと刺さった、といえる映画でした。
正直いって、感想をうまくまとめられませんが、これからの人生の折々で思い出すことになる映画になることは間違いないと思います。

7月19日(土)〜 TOHOシネマズ日劇ほかで期間限定ロードショーです。

動画は以下です。
http://www.youtube.com/watch?v=1nfU_5NWBoE&feature=youtu.be