わたしと明日のおしゃれなカンケイ

スタイリスト&エッセイストの中村のんの日々、印象に残った出来事。

黒澤明監督作『生きる』を、ファッション的に観てみた

誰もが知ってる黒澤明監督の名作『生きる』(1952年の作品)を何十年ぶりかでDVDで鑑賞しました。
子どもの頃に観て、その後、若い頃に観た映画、もちろん一番印象に残っているのは雪の公園でブランコに乗った主人公が「命みじかし、恋せよ乙女」を唄うシーンでした。

昨夜、改めて観て、新たな発見や感動が次々にありました。この映画については私がわざわざ書くまでもなく、映画の専門家や黒澤ファンに語り尽くされているので、ストーリーに関しては割愛します。でも、改めて観て、あまりにも感動したので、この映画の魅力について、どうしても語っておきたいと思いました。

新たな発見のひとつとしては、映像がファッションフォトとしても完成されてるということでした。
ここでは敢えて、帽子について書きます。

癌によって余命半年の主人公、渡辺が、そのことを知ったあと、高級なお洒落な帽子を買って被る、このことは全編を貫く大事なキイになっています。
当時としては、しかも、30年間、地味にコツコツ役所で働いてきた男性としては、とても派手なグログラン(リボン)だったことと思います。

DVDを観ながら、帽子が印象的なシーンをスマホで撮りまくったので、ここに集めてアップします。
男性二人が帽子を被ってないところを想像してみてください。この絵の中で、いかに帽子が大きな役割を担っているかがわかると思います。


そしてこれはもう、VOGUEのグラビアに載せても、ラグジュアリーブランドの広告にしても通用するほどの絵。

車中の女性の顔に当たっているライトにも注目したい絵。

80年代に植田正治さんが撮られたTAKEO KIKUCHIの広告を彷彿とさせます。

主人公、渡辺のお通夜のシーン。
詰めかける新聞記者に答える渡辺の上司。背後に見える重なり合った帽子から、通夜に集まった男性たちの服装が伝わってきます。
もちろん、背後にこの帽子たちがあるかないかでは大違い。

通夜の席に、警察官によって「公園に落ちてました」と、届けられた公園で死んでた主人公の帽子。物言わずとも多くを物語っています。

そして最後、故人を偲んで、上から公園を覗く同僚の頭。

主人公に限らず、登場する多くの男性たちが帽子を被っているこの映画。誰もが特別お洒落なわけでもなく、上流なわけでもなく、ごくごく一般的な市民なわけですが、どの帽子をとってもフォルムが美しくエレガント。スタイリスト的には、誰が作ったのか、1人1人の帽子に関して、黒澤監督はどのようなこだわり方をしたのか、そこもとても気になってしまいました。

大人の男性にとっての帽子、そのことにも改めて感じ入った、今回の『生きる』鑑賞でした。