わたしと明日のおしゃれなカンケイ

スタイリスト&エッセイストの中村のんの日々、印象に残った出来事。

『草笛光子のクローゼット』

草笛光子さんと広告のお仕事でご一緒させていただいたのは15年以上前のことでしょうか。お会いした途端、肌の美しさに驚きました。
撮影は数時間で終わりましたが、ポチ袋に入った心付を下さったことにも驚きました。スタイリストの私だけでなく、ヘアーメイクさんにも。撮影現場ではたくさんの芸能人の方とお会いしてきましたが、こんなことは初めてであり、その後も経験したことはありません。嬉しかったのはもちろんですが、手渡してくださったときの自然な所作の美しさにも感動しました。

その後、2010年に私が本を出版したとき、ラジオ番組でファッションに関して草笛さんとお話しさせていただきました。ラジオは姿が見えないけれど、カジュアルながらもゴージャスな、とーっても素敵なコーディネートで来られ、「素敵ですね〜」と言って質問したら、「そこらへんの洋品店で買った安物よ。いいなと思ったら、ブランドとか関係なく、すぐ買っちゃうんです」と仰っていましたが、とても安物を着ている思えない装いでした。

そんな思い出がある草笛光子さんがファッションの本を出されることを知ってすぐ、発売前にAmazonで予約しといた本が先週末に届きました!「草笛光子のクローゼット」(主婦と生活社)。ファッション雑誌より小さく書籍より大きい版の大きさ、紙、装丁も素敵です。

中年以上の女性を対象としたリアルファッション本が目白押しに出版されている昨今。
書店で時々チェックしながら、でも50代以上となると、リアルと夢の匙加減が難しいもんだな〜と思っていたところに出たこの本。写真を見た途端、「草笛さんのお部屋、なんて素敵!」と思いましたが、よく見たらオール横浜のホテルニューグランドで撮影されたものでした。でもその背景が、自前の服でもしっくりくる草笛光子さんの存在感。

そして、50代以上の人が自前の服を着てポーズしてる姿は、よほどの人じゃない限り、どこか無理があったり、場合によっては気恥ずかしい感じもするものですが、いかにも作られたシチュエーションでも、どんなポーズでも、84歳にして似合っちゃう、どころか、うっとりしちゃうのは、やはり、さすが、長年舞台に立ってこられた方の貫禄と文句なしのゴージャスさがあってこそ。

スタイリストやデザイナーが主役のこの手の本は、どうしてもファッション哲学や、読者への教えが入ってしまうけど、「ただ楽しんでる」その感じがストレートに伝わってきて「いくつになっても楽しむことが大事なのね〜」と単純に思わせてくれるところも気持ちよく嬉しいです。


「私は何十万もする高価なブランドの服も宝石も持っていません。ごくシンプルな服に、プラスチックのアクセサリー類をたくさんつけたりと、ないなかで工夫するほうがずっと楽しいです」by草笛光子

こういう台詞が説得力をもつ素敵なコーディネート!


巻末にまとめられた服にまつわるエピソードも素敵です。

越地吹雪さんが亡くなる1週間前、一緒に買い物に行って「今、買っておいたら、あとでよかったと思うから」と勧められ「こんな高価なのいらないわ」と言ったが「絶対に似合うから。私のおしゃれを信じなさい!」と強く言われて買ったロエベの革のコートの思い出等々。

「和」じゃなく、ファッションで、しかも「遊び心のあるファッション」で、日本にも高齢のこういう女優さんがいる!そのことを知るだけでも、なんだか嬉しくなる本です。

この本、きっとすごく売れると確信します!
(私は関係者でも、回し者でもありませんが(笑))

草笛光子のクローゼット

草笛光子のクローゼット