わたしと明日のおしゃれなカンケイ

スタイリスト&エッセイストの中村のんの日々、印象に残った出来事。

映画『ブルージャスミン』から女の生き方について考える。

主演のケイト・ブランシェットが本年度のアカデミーの主演女優賞を受賞、
サリー・ホーキンス助演女優賞、監督のウディ・アレン脚本賞にノミネートされたことからも話題になった映画『ブルージャスミン』が、5月10日から全国公開されますが、私は、数ヶ月前に試写で観させていただきました。

震災によって「生きる」ということの根源的な意味を考えざるを得ない境地に立たされ、ファッション関係者の間でも、「ファッションの役割って何?」「ブランドのもつ意味は?」という問いかけや会話が何度も行われてきました。
その自問自答が今も心の中で繰り返し行われている私にとって、かなり考えさせられる映画でした。

ストーリーの詳細は割愛して、一言でいえば、大富豪の妻として、人も羨むゴージャズなセレブの生活をしてきた美しいジャスミンが、夫の破産によって、同じ里親の元で姉妹として育った妹の家に身を寄せるところから始まる物語。

柄の悪いパートナーと、一見可愛げのない息子二人と暮らす妹のジンジャーの貧乏な家のインテリアの中で、めちゃめちゃ浮いてるジンジャーの所持品のヴィトンのトランクや、バーキンやシャネルのマーク。
散らかった貧しい家の中でも、エレガントなスタイルを崩さないジャスミン。けれど、そんなスタイルを保持しながらも、ジャスミンの服には終始、脇汗が醜いシミを作っていて、これはウディ・アレンの演出によるものなのか、ケイト・ブランシェットのアイデアだったのか、その脇汗からジャスミンの心情がリアルに伝わってくることに感動しました。

新天地でハンサムなエリートと知り合い、恋に堕ち、新たな幸せを掴めるかと思いきや、「虚飾」を手放すことができないジャスミンは。。。。

「虚栄という花」というサブタイトルのついたこの映画。
私程度のレベルの人生で出会った中にも、女性誌のグラビアでは、オシャレなインテリアやファッションを披露しながらも、心のうちを含め、実際は…という人には何人もいる。
もうそこにはいられないのに、形を留め続けておこうと必死でもがいている人も見てきた。
いったん手にした華やかさや賞賛は、はかないものだと知りつつも、女性にとって蜜の味。得るまでがスムーズだったら尚更、手放すには相当の覚悟と勇気とエネルギーが必要だ。

ウディ・アレンは大監督でありながら、ダイアン・キートンミア・ファローといった魅力的な大女優をパートナーにしてきた男。彼女たちだけでなく、彼女たちを取り巻く友人をはじめ、映画に使ってきた女優たち等々、美しく華やかな女性たちの生活や、その裏表を嫌と言うほどリアルに見てきたことと思う。
そんな彼の女性たちへのメッセージにも思える映画。
華やかさの真っ直中にいる人にとっても、華やかさに憧れる人にとっても、そして私にとっても、グサグサ突き刺さる物語です。
セレブに近づきたがる女性は多いけど、私はやっぱりジンジャーみたいに、ありのままを自然体で生きてる女性のほうに人間的な魅力を深く感じたのでした。


これは私の敬愛するダライ・ラマ法王とケイト・ブランシェット
実際の彼女は、「虚飾」のバカバカしさをよくわかっている人なのだと想像します。

ちなみに「ジャスミン」は、彼女が自分のイメージのためにあとからつけた名前。

これは街のあちこちで見かける今が盛りの「羽衣ジャスミン」。
盛りを過ぎれば潔く花を落として枯れてゆくジャスミン。自然は執着なしに生きている。

公開は5月10日〜
新宿ピカデリーBunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座シネ・リーブル池袋ほか。